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最高裁判所第三小法廷 昭和22(オ)21 判決

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人柿本栄の上告理由は、添附別紙記載の通りである。よつて左に各論点

に付き其理由の無い所以を説明する。

論旨第一点及第二点に付て

被上告人が原審において本件債務を上告人等が引受けたことを主張し、これを請

求原因としたことは記録により明で、原審も上告人等が右債務を引受けた事実を認

定したのであるから主張の無い事実を認定したものではない、又原審挙示の証拠に

して信ずべきものとすれば(証拠が信ずべきものなりや否やの判断は原審の専権に

属する処である)これにより、昭和八年四月末上告人両名及訴外Dの三名が被上告

人を訪ね、本件山林を担保として本件貸金を為すべきことを懇請した際、被上告人

は其前から右Dに対しては相当の貸金があり弁済を受けて居ないので、其上金を貸

す意思は全然無かつた為め、どの位の価値があるかわからない右山林を担保にして

金を貸すことは出来ない旨を告げて断つた処、上告人等及Dは上告人等において引

受け弁済すべく絶対に迷惑をかける様なことはしないから是非貸して貰いた旨を繰

返し述べて頼んだので、そこで初めて被上告人は貸すことを承諾した事実であるこ

とが充分認められる、されば此時において既に四名(被上告人、上告人等及D)の

間に予めの引受契約が成立したものと見て差支ないのである、又右事実を前提とし

て甲第一、二号証を見れば、其後右の約束に基きいよいよ貸金も実現し、債務引受

も現実化したのでDから上告人等に対し債務弁済を条件とする担保山林取戻請求権

を譲渡し、其旨を被上告人に通知したものとも見ることが出来るのである、いづれ

にせよ原審が其挙示した証拠を信じた以上これにより債務引受契約が完全に成立し

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たことを充分認め得るものであるから原審が証拠によらずして事実を認定したとい

うことは出来ない、当事者の主張した契約、証拠で認め得る契約及原審認定の契約

の間に同一性が認め得られる限り(本件においては充分それが認められる)其間た

とえ契約成立の日時、形式等に付き多少の食いちがいが有つても判決破毀の理由と

はならない、論旨はいずれも理由が無い。

論旨第三点及第四点に付て

乙第一号証にいう「其他の損害」とは所論の様に本件債権のことをいつて居るの

かどうかわからない、同証の文面丈では無論わからないし、他にも其事実を認める

に足る資料は無い、乙第二、三、四、五号各証にいう「親類の人」というのも上告

人等を指して居るのかどうかわからない、これ等の書証をよく読んで見ると寧ろE、

Fの両名を指して居るので、上告人等を指して居るのではない様にも見える、それ

だからこれ等の書証で、論旨にいう様な事実を認定することは出来ない、そして乙

第一及七号証によつては只被上告人が「証書を差入れろ」という要求をしたことが

わかる丈けで「新に保証人を立てろ」という要求をしたとの事実は認められない、

既に存在する義務に付いて新に証書を差入れろという要求をすることはよくあるこ

とである、本件債務に付ては上告人等の引受はあつたが、これに付てはしつかりし

た証書は入つて居ないのだから、訴外Dが担保山林を伐採したりして損害をかける

ので(原審認定の事実)被上告人は不安となり今迄より確実にして置きたいと思つ

て、更めて確な証書を入れることを要求したり又E、F等を保証人にすることを要

求したりしたという様なことも考へ得る処であるから右乙号各証を以てしては所論

の様に本件債務に付き新に上告人等を保証人にしろという要求があつたという事実

を確認することは出来ない(上告代理人は自己の立場から右各証を見るから自己に

有利に、論旨にいう様に見えるのだろうけれ共第三者が見れば必ずしもそうは見え

ない)又右書証には「保証」と書いてあつて「債務引受」とは書いてないけれ共「

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債務を引受け支払う」という様な語は素人の間では保証の場合にもよく使われるか

ら当時は被上告人にはまだ債務引受とか保証とかいう様な法律上の観念は、はつき

りして居なかつた為めであろう、又債務引受には所謂重畳的引受もあり此の場合に

は旧債務者も引受後においても依然債務者である、素人たる被上告人は当時事実上

の借受人たる訴外Dが債務者でないなんてことは考へ及ばなかつたであろうことは

想像するに難くない処である従つて同人に対し被上告人が色々要求したのは無理か

らぬ処であろう、以上説示した処でわかる様に所論乙各号証によるも必ずしも論旨

にいう様な事実即債務引受の事実が無かつたので被上告人が上告人等を新に保証人

に立てろという要求をしたのだとの事実を認めなければならないことはない、従つ

て原審の認定を違法なりとすることは出来ない(乙第十四号証も原審の認定を妨げ

るものではない、同証に付ては論旨第五点に対する説示参照)、なお「原審は上告

人等が所論乙号各証を提出したことを判決事実摘示欄に明記して居るから原審が同

証に対する判断を遺脱したということは出来ない、尤も実験則上同各証の存する以

上原審と反対の認定をしなければならない様な場合であるならば原審は実験則に反

した認定をしたとか或は同証に対する判断を遣脱したとかいうことになるのだけれ

共、所論乙各号証に付てはそういう場合でないこと上来説示の如くであるから、原

審が同各証の存在を忘れずに判決事実摘示欄に掲げて居る以上同各証をも参酌した

ものといわなければならない」原判決には所論の様な違法は無いので論旨はいずれ

も理由がない。

論旨第五点に付て

殆総ての訴訟において原告代理人と被告代理人との事実上の主張は正反対である

場合が非常に多い、此場合どちらかの主張が真実に合わないものと見るの外ない、

客観的に真実の事実に二様は有り得ないから、訴訟代理人が常に真実のみを陳述す

れば、訴訟において事実上の争というものは無くなり、訴訟は頗る簡単になる筈で

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ある、然るに殆総ての訴訟において事実上の争が非常に多いのは訴訟代理人が過失、

思い違い其他の理由で屡真実に非ざる事実を陳述することがあるからである、かよ

うに訴訟において訴訟代理人の陳述する事実は必ずしも真実に合するものとはいえ

ないから乙第十四号証によつて上告人等が本件債務の債務者でないものと認めなけ

ればならないことはない、従つて論旨は理由が無い。

論旨第六点に付て

原審の措信採用した証拠によれば上告人等とDとの三名が被上告人方に行つた際

Dも「上告人等において引受け支払つてくれるので迷惑はかけないから貸してくれ」

といつて頼んだ事実が認められること論旨第一、二点に付て説示した通りであるか

ら引受がDの意思に反しないことは明である、所論資料によつて同人の意思に反す

るものと認めなければならないことは少しもない、論旨は理由がない。

論旨第七点に付て

被上告人が担保山林を債権の弁済期前任意処分したことにより法律上当然其処分

代金が債権の弁済に充当せられて債権が消滅することになるものでないことはいう

を俟たない(そんな法規も法理も存在しない)其他右充当の事実のあつたことは原

審の認定しない処であるしこれを認めなければならない資料もない、他の訴訟にお

いて訴訟代理人のいつたことが必ずしも真実に合するものといえないことは論旨第

五点に付て説明した通りである、従つて所論書証により充当の事実を認めなければ

ならないこともない、此点において論旨は既に理由がないのであるがなお計算関係

から見ても充当の無かつたことはわかる、被上告人が本件担保山林を処分したこと

を原因として上告人等は別訴損害賠償事件において被上告人から該山林の価額全部

に損害金迄添えて金四万円余の支払を受けたことは争の無い処である、上告人等が

かくの如く山林の価額全部の支払を受けたのは債権が未だ消滅せず、上告人が其弁

済義務を負担して居るからであろう、そういうより外説明のしようがない若し債権

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が右山林の処分代金の中から弁済せられて消滅したものとすれば、上告人等が損害

賠償として請求し得べき額は山林の債額から消滅した債権の額を控除した残額丈け

でなければならぬ、若しそうでなく債権が消滅した上に山林の価額全部(これは山

林に代わるものであるから計算関係から山林そのものと同じである)の支払を受け

たものとすれば、上告人等は自己の有して居た権利は本件債務を弁済して山林を取

戻す権利であるのに、債務に付ては事実上一文も出さずに山林全部を取戻した計算

になり債務額丈けただ儲けをした勘定になる(つまり一文も出さずに前記四万円余

をただ取りしたことになる債務元利を弁済してもざつと計算した処によるとなお約

二万円の利益を得て居る様である)然るに一方披上告人は山林は売つたけれ共、其

山林の価額全部を上告人等に支払つたのだから理論上山林の処分によつて得た金は

少しも自分の懐に入らず全部上告人等に持つて行かれてしまつたわけである、尤も

実際上被上告人が山林を処分して得た代金の方が上告人等に支払つた賠償額より多

ければ、其差額丈けは被上告人の懐に残るわけだけれ共、本件の実際においては被

上告人は山林処分によつて得た代金額全部は勿論遥かにそれ以上を上告人等に取ら

れたのである(被上告人の支払つた額は山林価額丈けで二万九千円余損害金を合算

すると四万円余であることは争なく、又上告人A1自身が原審において供述した処

によつて見ても被上告人が最初山林を処分した時の代金は一万二千円ばかりである)

担保物を処分して得た金は全部債務者に持つて行かれ其上債権迄消滅するという様

な勘定は有り得ない。要するに原審が充当消滅に関する上告人等の主張を排斥した

のは当然であり、論旨は理由がない。

よつて上告を理由なしとし民事訴訟法第四百一条、第九十五条、第八十九条に従

い主文の如く判決する。

以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。

最高裁判所第三小法廷

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裁判長裁判官 長 谷 川 太 一 郎

裁判官 井 上 登

裁判官 庄 野 理 一

裁判官 島 保

裁判官 河 村 又 介

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